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新連載:ふるさとの峠と街道 その19-①

株式会社 菁文社

「ふるさとの峠と街道」は、第1部 ふるさとの街道、第2部 ふるとさの峠 として2部構成でお届けします。
 第1部「ふるさとの峠」は、昭和54年(1979)5月から「げいびグラフ」誌上に“峠を語る”シリーズとして21回にわたって連載したものです。今では交通機関の多様化とこれに伴う土木技術の発達により大巾な改修がすすみ、峠は旧来の峠としての機能を失って、峠の存在すら忘れ去られています。
   このたび、あえて連載当時の記述に修正を加えることなく取材当時の内容を再掲し峠を歴史の証として伝えることにしました。



【若菜ガ峠(わかながとうげ/世羅郡世羅町)その①】

― 悲恋物語を伝える峠 ―


 県道三原 ― 東城線は、世羅郡甲山町から世羅町の東神崎(かんざき)・西神崎を経て、同町の青山へ入ってから緩やかな登り坂になる。県道の南側は低い山並みが続き、その山裾を通ってやがて山並みを越える所へ来る。そこが目当ての若菜ガ峠である。
 県道の北側は広々とした大田盆地で、世羅台地の心臓部となっている。盆地の北寄りに田園都市の甲山・大田の家並みがひしめき合っている中に、官衙・学校・病院・農協・金融機関・会社・工場等々大きな洋風の建物が点在している。その背後に新山(にいやま/635.1メートル)が長い裾野を東西に流し、富士型の主峰が泰然と聳(そび)え、いかにも大田富士というに相応(ふさわ)しい風格を誇っているのが印象的である。
 この道路が改修される前は、青山の浅い松林へ入ると、幾度か曲折しながら登る勾配の急な峠道であったが、今は県道らしく改修されている。松林が尽き、わずかばかりの平地が開けた所が若菜ガ峠で、ここはもう青山を過ぎて世羅町の田打(とうち)である。路傍に古めかしい石仏が2体セメント造りの小祠の中に祀られ、紅提灯が吊され、線香や草花が供えられている。以前は“峠の茶屋”もあったというが、今は立派な民家が2戸ばかりと養鶏場や石州瓦の販売センターなどがあって、すっかり近代化し、昔の面影を残しているものは石地蔵様くらいのものである。養鶏場の下に昔は3つあったという池が、今は2つになっていて、青黒く澄んだ水が雲を映して静まりかえっている。これが伝説に出て来る若菜ガ池である。
 峠から南への下り坂も左側は山で、右側は小さい谷となり、急斜面は松林である。この坂を下りきった所が田打の郷で、御調郡久井町はここから遠くはない。甲山から三原へは定期バスが通っている。
         *
若菜ガ峠を語るとき、どうしても紹介しておきたいのは、若菜という娘の悲恋の物語で、それにまつわる妖気に満ちた奇異な伝説である。「世羅の文化第二号」に光元登義氏の書かれた伝説に私の想像を交えて紹介する。
「昔、田打の農家の若者田市(たいち)が尾道の商家に雇われていたが、その家の娘若菜といつしか恋仲になった。それを知った主人は激怒し、田市を追放してしまった。田打に帰った田市は、若菜恋しさのあまり峠の池に投身したが、恋慕の執念は死なずして大蛇になり、池に棲みついた。他方若菜も田市恋しさに毎夜家を抜け出して、田打まで一気に走り来て池に飛び込むと、彼女も大蛇に変身して田市の大蛇と嬉しそうに組みつからみつ戯れ合い、愛の楽しさに浸り、二の池、三の池へと移って性の喜びを満喫し、やがて若菜の大蛇は堤に上がって娘姿にかえり、その夜のうちに尾道まで走り帰った」
 若菜の挙動を不審に思った父親は、ある夜若菜の後をつけて田打まで来てこの有様を目撃し、肝を潰して逆上し、娘姿にかえった若菜を堤の上で刺し殺してしまった。暫くして我にかえった父親は、可愛い若菜をこんな事にしてしまったのは、若い二人の愛情を引き裂いた自分に原因があることを悟り、深く詫びて泣く泣く屍体を池の辺に葬り、墓を建てて供養した。また立派な石塔を作らせて、若菜が通った道の傍らに比翼塚(相思の若い男女を同じ所に葬った塚)を建立して二人の霊を弔った」
久井町の下津には県道沿いに立派な宝篋印塔(久井町の重要文化財)が2基並び立っているが、それも比翼塚といわれている。地方の人たちは悲恋の若者を哀れんで、峠や池に若菜という呼び名をつけたという。






◆次回は若菜ガ峠その②を紹介します。



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基本情報

名称株式会社 菁文社
フリガナ株式会社 菁文社
住所728-0023 三次市東酒屋町306-46
アクセス国道375号線三次工業団地口交差点より北へ850m
電話番号0824-62-3057
ファックス番号0824-62-5337
メールアドレスgeibigrf62-3057@seibunsha-f.com
営業時間8:30~17:30
定休日土・日曜、祝日
駐車場あり
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