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三次の地域情報サイト「まいぷれ」三次市

新連載:ふるさとの峠と街道 その19-②

株式会社 菁文社

「ふるさとの峠と街道」は、第1部 ふるさとの街道、第2部 ふるとさの峠 として2部構成でお届けします。
 第1部「ふるさとの峠」は、昭和54年(1979)5月から「げいびグラフ」誌上に“峠を語る”シリーズとして21回にわたって連載したものです。今では交通機関の多様化とこれに伴う土木技術の発達により大巾な改修がすすみ、峠は旧来の峠としての機能を失って、峠の存在すら忘れ去られています。
   このたび、あえて連載当時の記述に修正を加えることなく取材当時の内容を再掲し峠を歴史の証として伝えることにしました。



【若菜ガ峠(わかながとうげ/世羅郡世羅町)その②】

― 悲恋物語を伝える峠 ―


 この峠を毎年100頭近くの牛が北から南へ向かって移動するという、この峠では珍しい光景が見られた。峠の南に日本三大牛馬市に数えられていた久井の市が、一番市は10月22日から、二番市は11月23日からそれぞれ5日間、稲生神社の門前で毎年開かれ備後の奥地はもちろん、遠く山陰方面からも牛を曳いて集まった。一人の追子が4~5頭の牛を連れ、人畜ともにテクテク歩いて3、4日がかりで来る者もあった。それらは何となしに小集団をなし、集団と集団の間隔は縮まったり離れたりしながら長い行列をつくり、やがて若菜ガ峠を踏み越えて行く。それはこの地方独特の風景であったが、牛の鳴き声は売られて行く悲哀に充ちた叫びのようで、そぞろ哀感を覚えずにはいられなかった。
 終戦後、家畜市場制度が変わって、1千年近い伝統のある久井の市も閉鎖され、再び牛の行列が見られなくなったのは淋しい限りである。
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 社寺のお祭りが若菜ガ峠という障害物を踏み越えて、行政区画を異にする閉鎖性を破って、御調郡と世羅郡の大勢の人々のふれあいの輪を広げていった事も考えられる。南に由緒ある久井の稲生神社があり、北に古い歴史を持つ甲山の今高野山があって、毎年それぞれ伝統的なお祭り行事が盛大に行われ、近郷近在から多くの人たちがそこに集まった。
 平素は寸暇を惜しんで農作業に精出す農家の人たちも、毎年の祭日は農休日にして隣近所誘い合わせ、三々五々のグループが世間話に花を咲かせながら、ゆっくりとした足どりで若菜ガ峠を越えた。久井町の人たちは甲山の今高野山へ、甲山・大田の人たちは久井の稲生神社へ、それぞれの祭日にはお参りを兼ねた祭り見物に、往復する一日の行楽に満足したのである。
 その道中や雑踏の中で単に顔を合わせるだけ、一言挨拶をしただけという淡いふれあいが、コミュニティの輪を広げる事に役立ったのではないか。近年は自家用車が普及して家族単位の行楽となり、仲間同士で思い切りの楽しみを求めて、若菜ガ峠を歩いて越える光景は全く見られなくなってしまったのだが……。
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 時勢の急激な流れとともに若菜ガ峠もその様相を一変し、昔の峠というイメージは全く感じられなくなった。特に車時代の今日、路傍に祀られている地蔵様の前に立ち止まって手を合わせる人もなく、峠の民俗信仰性も薄れてしまって、現代人の心に峠として残るものは何一つないのではなかろうか。
 ただ、この峠は“若菜”の伝説が語り伝えられる限り、地方の人々の心から古い峠の姿が消え去ってしまうような事はないであろう。それがせめてもの救いであると思っている。
(昭和60年9月 門原粂夫)



写真【峠の頂上。家の裏手に若菜ガ池と墓がある】




◆次回は中山峠を紹介します。



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基本情報

名称株式会社 菁文社
フリガナ株式会社 菁文社
住所728-0023 三次市東酒屋町306-46
アクセス国道375号線三次工業団地口交差点より北へ850m
電話番号0824-62-3057
ファックス番号0824-62-5337
メールアドレスgeibigrf62-3057@seibunsha-f.com
営業時間8:30~17:30
定休日土・日曜、祝日
駐車場あり
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