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三次の地域情報サイト「まいぷれ」三次市

新連載:ふるさとの峠と街道 その8-②

株式会社 菁文社

「ふるさとの峠と街道」は、第1部 ふるさとの街道、第2部 ふるとさの峠 として2部構成でお届けします。
 第1部「ふるさとの峠」は、昭和54年(1979)5月から「げいびグラフ」誌上に“峠を語る”シリーズとして21回にわたって連載したものです。今では交通機関の多様化とこれに伴う土木技術の発達により大巾な改修がすすみ、峠は旧来の峠としての機能を失って、峠の存在すら忘れ去られています。
   このたび、あえて連載当時の記述に修正を加えることなく取材当時の内容を再掲し峠を歴史の証として伝えることにしました。



【坂根峠(さかねとうげ/三次市)その8-②】

― 消えた峠 ―

 柳田国男は、かつて「峠に関する二、三の考察」(『風信帖』昭和11年)の中で、峠にある表裏二つの顔という興味のある話を書いている。
 それは、一つの商圏の中心に向かって、求心的に延びるルート上に生まれた峠は、商圏の中心に向かって登る時の道の場合、けわしい谷沢を利用しても、近距離を一気に登って峠に出る“裏の顔”。今一つは、峠の頂上から商圏の中心に向かって下る場合、なだらかな尾根伝いに遠回りをしても、目的地を展望しながら下りて行く“表の顔”であるというのだ。
 坂根峠が、そのままこの話にあてはまるとは断定し難い。しかし頂上より南側の道は、急峻な山肌を無理をおして一気に登るタイプの道=裏の顔である。これに対して、頂上より北側の道は、盆地を見渡しながら、山の中腹から尾根伝いに、比較的ゆるやかに下るタイプの道=表の顔のように思われる。
 三次という、備北におけるささやかな商圏の中心に向かう、典型的な峠のパターンの一つと見ることは、無理であろうか。
         *
 明治十年代から始まった県道の改修に伴って、西酒屋の船所から峠に向かうルートは廃され、可愛川沿いに三次に入るルートが敷設された。それによって、坂根峠は主要な交通路としての役目を終え、人々の記憶からも次第にうすれて行く運命をたどったようだ。
 明治22年(1889)、西酒屋村、東酒屋村、青河村が合併して酒河村となり、村役場や小学校が、峠の頂上付近に設けられた。そのため、峠はなおしばらくその命運を保つことになる。
 特に峠の南半の道は、村役場へ行く村民や、通学する小学生によって利用され、何度かの改修整備も行われたという。
 一方、峠の北半は、植松地区の人々の生活路として、細々と利用される程度であった。峠はその機能を失って二分された形となったようだ。
 それでも、この峠に活気がもどる日が、月に何度かはあった。それは、三次で牛市の立つ8の日(8日、18日、28日)である。交通の頻繁な県道を避けた博労さん達が、数珠繋ぎにした牛を追っての行き帰り、峠越えをするのである。船所地区に住む古老の話によれば、
「一人で何頭もの牛を曳いて歩いて行く集団が見られた。懐中電燈で牛を照らしながら、夜中に通る者もいた。行列の全体を一度にストップさせるのが難しいので、博労さん達は歩きながら弁当を食べたり、小便をしたりして、沿道の人々を笑わせていた」
と懐かしそうに昔の話をしてくれた。
         *
 中国縦貫道やインターチェンジへの取り付け道路が出来て、峠付近の様相は一変してしまった。
 峠の頂上を南北に縦貫道が走り、これを縫うように立体交差しながら、船所地区からの取り付け道路が付設されたのである。峠は完全に二分されて、姿を消しつつあり、頂上付近にその面影はほとんどない。今、県北の多くの峠が、地域開発の名のもと、モータリゼーションの時代の中で、その姿を消されて行きつつある。坂根峠は、こうした時代を象徴しているともいえよう。
 坂根峠の頂上だったと思われる付近には、いかにも申し訳のように歩道橋が2本、縦貫道の上にかかっている。その上に立って、何度か、昔の峠を思い出そうとしたが、絶え間なく走って来る自動車の音にかき消されてか、“私の坂根峠”は、ついに甦えらなかった。
(昭和57年12月 米丸嘉一)

【写真:面影が残る峠の頂上付近】


◆次回は尾引坂を紹介します。



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基本情報

名称株式会社 菁文社
フリガナ株式会社 菁文社
住所728-0023 三次市東酒屋町306-46
アクセス国道375号線三次工業団地口交差点より北へ850m
電話番号0824-62-3057
ファックス番号0824-62-5337
メールアドレスgeibigrf62-3057@seibunsha-f.com
営業時間8:30~17:30
定休日土・日曜、祝日
駐車場あり
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