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新連載:ふるさとの峠と街道 その16-①

株式会社 菁文社

「ふるさとの峠と街道」は、第1部 ふるさとの街道、第2部 ふるとさの峠 として2部構成でお届けします。
 第1部「ふるさとの峠」は、昭和54年(1979)5月から「げいびグラフ」誌上に“峠を語る”シリーズとして21回にわたって連載したものです。今では交通機関の多様化とこれに伴う土木技術の発達により大巾な改修がすすみ、峠は旧来の峠としての機能を失って、峠の存在すら忘れ去られています。
   このたび、あえて連載当時の記述に修正を加えることなく取材当時の内容を再掲し峠を歴史の証として伝えることにしました。



【権現峠(ごんげんだお/比婆郡東城町)その①】

― 馬も難儀した崩土との闘い ―

 比婆郡東城町保田の権現峠(標高740メートル)は雪の難所。峠近くまで来た車が、意外な積雪にやむなく引き返す光景もしばしば。県道東城 ― 西城線(30.8キロメートル)の中でも一番高い峠で、昨年は2メートルも雪が積もった。
 権現峠を有名にしたのは、積雪ばかりではない。峠から西へ、西城町の市街地まで下る12.8キロの通称“東城道路”。カーブ100カ所以上、勾配100分の6.4。往復一便の定期バスが通っているが、馴れない乗客の中には、油断すれば飛びそうな谷底を見て、あわてて山側の席へ移る人もあるという。また旧八幡村が東城町と合併する前、同村森小学校の校長が、西城町からフンドシ一つという姿で自転車を押して登ったのは有名な話である。
 権現峠から2.5キロ下ったところに西城町との境界標識がある。昔から峠を挟んで東の東城町保田(やすだ)、川鳥地区と西の西城町とは密接な商業圏、婚姻圏を成していた。
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 この峠が切り開かれたのは102年前の明治16年(1883)。西城町から鹿深谷 ― 三の谷頭(かしら)― 保田・藤の木に出る10尺幅(約3メートル)の車道が開設された時で、それまでは峠の北東を廻る、銑鉄(づく)や砂鉄を背負った荷馬の通る道があった。今も、その旧道の狐原に、伊勢神社と大仙神社が祀られている。旧川鳥村(現東城町)の松ガ峠トンネルもこの時掘られ、東城町までの車道が開通した。車道といっても荷車が通るに過ぎないが、東城からさらに、銅山のある備中吹屋を経て、岡山へつながる唯一の道で、沿道の村々は喜びに湧き、仮装行列などの催しが開かれるほどであった。
権現峠の名は当時あった権現社に由来するが、この旧道にはこんな伝説が残っている。
 早乙女ウツギの花の咲く頃、今年も伊勢の太神楽(だいかぐら)佐々木金太夫一座がやって来た。岡山・備中吹屋・東城を経て西城へ越す途中、いつものように伊勢神社の前で神楽を奉納し、三の谷頭へさしかかった。すると見かけない大きな桧皮葺きの屋敷があって、女中に呼び止められ、一座は得意の女形道中(おやまさんどうちゅう)や数々の曲芸を披露。ご馳走になったうえたくさんの祝儀をもらって大喜び。ところがふと見ると今までの屋敷は跡形もなく消え、お金は木の葉。まんまと狐にだまされたのだった。
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 権現峠の2度目の掘削は明治34年(1901)で、西城町から北回りの鹿深谷ルートを廃して、南回りに市街地から数10メートルという見上げるように高い山腹につくられた時だった。幅12尺(約3.7メートル)、荷馬車の通るりっぱな道で、完成までに10年の歳月が費やされている。
 今度の掘削工事は“流下式”とでもいおうか、まことに奇抜な方法で進められた。遠方の谷川から溝を造って水をひき、上から水を流して土を洗い流し、約40メートルを掘り下げた。岩石の少ない赤土層に着眼したまでは良かったのだが「禍福はあざ縄を綯(な)うがごとし」今度は軟弱な地層がたたって、雪解けや雨季になると毎年崩壊し、時には路面が3メートルも埋まり、ぬかるんで馬も人も通行不能となった(地元の小林堯敬さん=86歳)。村当局もついに昭和8年(1933)、失業対策事業に取り上げ、路面をさらに3メートル掘り下げるなどして大改修を行った。当時は測量技術も幼稚で、夜、山のカーブごとにちょうちんを持って立ち、その間にちょうちんを連ねてレベルを測ったり、向かいの大富山城跡から高低を調整するなど、工事の苦労話は今も語り草となっている。



        
写真【町境より東城側の峠を眺む】

 


◆次回は権現峠その②を紹介します。



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基本情報

名称株式会社 菁文社
フリガナ株式会社 菁文社
住所728-0023 三次市東酒屋町306-46
アクセス国道375号線三次工業団地口交差点より北へ850m
電話番号0824-62-3057
ファックス番号0824-62-5337
メールアドレスgeibigrf62-3057@seibunsha-f.com
営業時間8:30~17:30
定休日土・日曜、祝日
駐車場あり
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