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新連載:ふるさとの峠と街道 その9-①

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新連載:ふるさとの峠と街道 その9-①
「ふるさとの峠と街道」は、第1部 ふるさとの街道、第2部 ふるとさの峠 として2部構成でお届けします。
 第1部「ふるさとの峠」は、昭和54年(1979)5月から「げいびグラフ」誌上に“峠を語る”シリーズとして21回にわたって連載したものです。今では交通機関の多様化とこれに伴う土木技術の発達により大巾な改修がすすみ、峠は旧来の峠としての機能を失って、峠の存在すら忘れ去られています。
   このたび、あえて連載当時の記述に修正を加えることなく取材当時の内容を再掲し峠を歴史の証として伝えることにしました。



【尾引坂(おびきざか/庄原市)その①】

― 忘れられた尾引峠(垰)―

 明治19年(1886)3月2日、ある家の嫁の持っていたカンテラが倒れ、まわりに積んであった薪木に火がついたのがもとで、見る間に家は焼け落ち、折からの風にあおられて火は隣へ隣へと燃え移り、あっという間に一つの集落全体が消失してしまった。世に伝えられている尾引村市場の大火である。
 嫁の持っていたカンテラは、節句を明日に控え、主人に内緒で搗いた節句餅を、明日は我が里へ届けようと、納屋で密(ひそ)かに荷造りをしていたものであったという。本当だとすれば、気の毒なできごとであり、哀しい話である。
 備中伯耆街道の恵蘇郡尾引村市場(現庄原市尾引町市場組)、峠にあった市場集落。その繁栄は、大火が契機となってさびれた。特に大火の3年後、明治22年(1889)に県道が敷設されるが、そのルートが約300メートル北側の谷沿いに和知村(現三次市和知町)から下村(現庄原市平和町)へ抜けたため、市場が県道の往来から取り残され、市場としての機能を果たせなくなったためである。消失した尾引市場は、再び復興することはなかった。
         *
 江戸時代、三次と庄原を結ぶ交通路は、荷物は西城川の舟運で、人馬は備中伯耆街道を利用している。尾引峠はほぼその中間点に当たり、三次郡から惠蘇郡へ入る郡境に位置し、中国山地特有の小さな村境的峠であった。尾引市場はその峠の頂上付近から東へ約300メートルにわたって、往還道沿いに発達した市場集落であった。
 ずいぶんにぎわった市場であった。
「ここはどこかと馬子衆に聞けば、ここは尾引の杉なわて」
「尾引新橋夜更けて通りゃ、下では三味線の音がする」
「三里のなわてに、一里の土橋、土橋三丁登れば小路に茶屋よ」
「奉公するなら尾引の鉄屋、麦にジョウボが食い放題」
「よいしょ、わいしょで儲けた金を、市のオトカがみなとった」
 市場には、宿屋、呉服屋、油屋、紺屋、豆腐屋、質屋それに茶屋など約五十軒が軒(のき)を連らね、茶屋には三味線をひく女郎も何人か居たという。
「新橋」「縄手」は、国兼川に沿う付近の小字地名として残っており、「鉄屋」は鉄の売買をした商家で、今の横路分家である。「市のオトカ」については、郷土史家市川喜八郎さん(83)=庄原市山内町=が、古老の言い伝えとして「器量よしで愛嬌のある娘が居た。来る客来る客を上手を言って手玉にとって泊め、宿は繁昌し大儲をしたという」と話して下さった。おそらく、売れっ娘の茶屋の看板娘で、街道を通る人々の評判になっていた女郎の一人であろう。
         *
 尾引で峠の話を古老に聞いたが、尾引峠(垰)と云う言葉はついに出なかった。おそらく、備中伯耆街道の時代の言葉で、県道になってからは、尾引坂に変わった。尾引市場の消失と共に尾引峠も消えたのであろう。県道は「峠」よりも「坂」という感じが強い。
 いささか余談になるが、「坂」と「峠」については……我が国の文献の「たうげ」という言葉の初見は、平安時代の後半、康和年中(1099)の堀川百首の中にある。勿論それ以前ずいぶん古くから使われた言葉であろう。しかし、「峠」という国字が生まれるのは後々のことである。漢和辞典を調べても、古くは「嶺」、「坂」を「とうげ」の文字に当てている。事実「記紀」や「風土記」も「嶺」や「坂」は見られるが「峠」はない。「峠」という国字の初見は、江戸時代中期の「和漢三才図絵」であるが、いくら古くみてもその成立は戦国時代以降のことであろう。
 してみると、旧街道時代の「尾引峠」の言葉が消えて新しい県道は「尾引坂」になったとはいうものの、語源的に見れば、大昔の地名に戻ったといってもよいのではなかろうか。




◆次回は尾引坂その②を紹介します。



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